ひかりのなかで

あたたかくて穏やか

ある日の手紙

 

「お母さんへ

 

元気にしていますか。happy*d Luckのオーディションに合格してから、二年が経ちました。あいかわらずわたしは左端から二番目で歌っていて、センターの子は性格がキツくてちょっと大変です。どうやったら仲良くなれるのかまだ考えています。半年後にアイドルグループのコンテストに出場することが決まりました。メジャーデビューへの登竜門なのだそうです。今はそのための練習とアルバイトが忙しくて目が回りそうです。お母さんは最近どうですか。

 

聖良」

 

明日ポストに入れよう。返事が来るかどうかは分からない。電話をかけても、メールをしても、わたしがアイドルになると言って無理やり上京してから全然連絡が取れなくなってしまった。実家から持ってきたお母さんとお揃いのマグカップでお茶を飲みながら、毎日お母さんのことを考える。夢を叶えたら、一度帰ろう。いつになるかは分からない。不安が募るばかりだけど、やるしかない。最近よく来てくれる人がいてうれしいことも話したい。でもこれは、家に帰れるまでは秘密にしておこう。机の上に置くファンレターの数が増えて来た。そのうちの一通は、達筆な字で「掛川聖良様」と宛名が書いてある。いつも差出人の名前はどこにも書いていないけれど、この字を見ただけで同じ人だとわかるようになった。この人も握手会に来てくれているのかな。応援してくれてありがとうって言いたいな。いつか、いつか、この人も名前を教えてくれますように。

 

  妖怪三題噺さま http://twitter.com/3dai_yokai
本日のお題は「アイドル」「ゲート」「マグカップ」でした。