ひかりのなかで

あたたかくて穏やか

チョコレート、見失った「君」のゆくえ

 

チョコレートを食べるのは、キスをするよりも気持ちいい、のだそう。わたしは毎日チョコレートを食べなければ気が済まなくなっていて、イライラの充満したオフィスの自分のデスクでも、カフェにいる時でも、湯船に浸かっている時でも、ベッドの中でも、チョコレートを手放すことができない。わたしはいつでも、お口のなかの気持ちよさを、なにか枯れてしまったものの代わりに延々と求め続ける。

 

ふと何人かの「君」を思い出すことがあって、あの時の甘い味と匂いはチョコレートに直結しているのように思える。何にも変えがたいあの甘さを、わたしは再現しようとしている。くたびれて繰り返しのように思える日々の中で。

 

「君」はいまもわたしの記憶の彼方で生き続けていて、時々会いにくるけれどどの君も顔がなくて、さらに記憶の中の君ももうすでにわたしがアイした「君」ではなくなっていて、過ぎていく時間の残酷さを思い知る。その瞬間にしか「君」は存在し得ない。「君」がいなくなったあとの容れ物をアイし続けようと何度も試みた結果、わたしは容れ物への触れ方だけが上手になってしまって、あたらしい「君」を見つけることができない。この触れ方、に動かされて恋する男子が後を絶たないので本当に申し訳なく思うのだけれど、わたしに見えているその容れ物の中に「君」がいなければ、どうすることもできずに表面上の恋を続けることになる。付き合えばね。容れ物はいつだって通過するものなのだ、興味を失っても発さなければならない「すき」という言葉を口にするたび、わたしの意識は宙をさまよって途方にくれる。

 

唯一わたしを繋ぎ止めてくれるのはチョコレートでしかなくて、あの時の幻影をわたしは追い続けているのか、それとも、見失ったその背中を探しているのか、全然分からない。もう分からないよ。

 

続く?