ひかりのなかで

あたたかくて穏やか

神様の遊び

 

落ち葉降る境内、狛犬の横にちいさな男の子が座り込んでいる。ゲーム機を両手に持って、カチャカチャと音を立てている。プラスチック特有の軽やかなその音につられて、神様が本殿の扉からひょっこりと顔を出す。

 

「なにしているの?」

「あっきつねさん。ぼく、いまゲームしてるんだ」

「げえむ?」

「かみさまのくせに げえむ も しらないのか」

 

近寄ってしゃがみこむ神様。白い尻尾が3本。キツネ目がちいさな画面の中で動く獣を追い始めている。

 

「また弱いやつだ」

「浩太、弱くてはいけないのか?」

「強いのじゃないと負けちゃうんだ」

「負けてもいいだろう、別に」

「それじゃあゲームする意味がないじゃんか」

 

神様は、ふむ、と言ってしばらく浩太がゲームに熱中しているのを見ていた。

 

「浩太、天才と普通だったらどっちがいい?」

「天才のほうがいいに決まってる、だって強いんでしょ?」

「まあ、そうかも知れん。浩太を天才にしてやろう」

「おお!やった!」

 

地面に落ちた紅葉が風で舞い上がる。

 

「強い、だけではダメなのだぞ。浩太」

 

それ以来、浩太は神社に来なくなった。

 

ーーー

 

「あれが首席卒業の」

「そう、首席卒業の」

 

ひそひそと隣の島から声が聞こえる。静かなオフィスの中、暇なのか女性社員はおしゃべりに興じている。どうせ、いつもの話だ。

 

「なんでもできるんでしょ?」

「なんでもできるみたい」

「仲良くなれそうもないね」

「そうね」

 

こういう会話、何度聞いたことか。ぼくは天才で、なんでもできる。それなのに、どうして誰も寄って来ないんだ。利用価値だって、メリットだって、あるはずなのに。

 

いくら考えても答えは出なかった。天才なのに。

ぼくはその日、会社の屋上から飛び降りた。

 

ーーー

 

翌日、寂れた居酒屋で、疲れたサラリーマン二人。

 

「井上、飛び降りたんだってな」

「あんなに頭良かったのに」

「恵まれているやつほどこうなるらしいな」

「天才って嫌になっちゃうよなあ」

「ゲームだったら話は別だよ」

「また個体値にこだわってんのかよ、帰ったらゲーム三昧か」

「タマゴ孵化待ちよ」

「単純でいいよなあ」

「人間は強すぎても弱すぎても嫌われる」

「みんなと一緒が一番安心だ」

 

浩太がいなくなっても世界は変わらない。

天才がいなくなっても仕事は回る。

 

神様はだれも来なくなった本殿で、次の餌食を待っている。

 

 

  妖怪三題噺さま http://twitter.com/3dai_yokai
本日のお題は「個体値」「神社」「プラスチック」でした。