ある昼下がり
足元に転がってきた黄色のゴムまりがぶつかり、てんてん、と跳ねて、やがてその動きを止めた。拾い上げると長い髪を二つ結びにしたちいさな女の子が芝生の上をかけてきてわたしを見上げた。
「おねえさん、何してるの?」
「お散歩してたんだよ」
「ふぅん」
女の子はゴムまりを受け取らずに、しゃがみこんだ。手にリンゴジュースのちいさなパックを持っている。
「しあわせ、あるかなあ」
「しあわせ?クローバーかな?」
「うん」
わたしもつられてしゃがむ。よく晴れていて、クローバーは光を受けていつもより薄い緑色をしていた。黄色いゴムまりは横に置いて、ふたりで静かに探した。
根気よく探していたけれど、わたしはだんだん飽きてきて、女の子に話しかけた。
「なかなか見つからないねえ」
「うーん、あのね、あるとおもうの」
「なんで?」
「みつけたら、しあわせになれるから!」
きっとわたしは渋い顔をしていたと思う。探すのに疲れて、探すふりをして、ないなあ、とつぶやいた。彼女は、あるよ、あるよ…とちいさな声で言いながら、少しずつ元いた場所から離れたところに動きながら探していた。一生懸命に。
ゴムまりを置いてきてしまったことに気づいて、わたしは取りにいった。手に持ってその柔らかさを楽しみながら戻ると、彼女は二つ結びの髪を風に揺らして嬉しそうにこちらを見た。
「ね、あったよ」
「本当に?」
「はい、どうぞ」
わたしは咄嗟に手のひらを差し出した。そっと、大事そうに、置かれた四つ葉のクローバー。
「もらってもいいの?」
「しあわせ、あげる!」
瞬間、遠くの方からベビーカーを押しながら麦わら帽子をかぶったお母さんと思われる人が、名前を呼んでいる。「めぶき!なにしてるの、いらっしゃい」
「じゃあね、しあわせ、たいせつにしてね」
ゴムまりを持って、彼女は走っていった。気づくとクローバーのなかにリンゴジュースが忘れられていて、なんだか顔が緩んでしまった。めぶきちゃんは、お母さんと一緒にもうすっかり遠くへ行ってしまった。わたしの手には四つ葉のクローバーが残っていた。