ひかりのなかで

あたたかくて穏やか

まどろみ、昨日の晩のこと

 

夢を見たような読んだような。寝かけの頭に黒い猫又がスルリと込んできた。もちろん大妖怪なので、人を飽きさせるようなヘマはしない。現代っ子で世間知らずのわたしにも分かる言葉で淡々と今日あったことを語り出す。広げたままのデイベッドにその黒い大きな身体を横たえて、こう言った。「俺は、ネコ舌なんだ」「そうなの、わたしもよ」「じゃあ嬢ちゃんを小妖怪にしてやろう」かくして、わたしは猫娘の小妖怪になった。

 

猫又は夏祭りの話をした。わたしの頭の中では、引っ越してから初めて過ごした下町の夏、商店街に連なる提灯、遠くまで誘うようなぼんやりとした明かりがユラユラしていた。「ねえ、猫又」「なんだ、嬢ちゃん」「どうして黒いの、わたしが知っている猫に似てるよ」猫又は上機嫌だった。「妖怪の毛色が分かるなんて大したもんじゃねえか」こころなしか、少し暑い気がしてきた。提灯が揺れている。屋台の煙と、川縁の水の匂いが漂う。「きっと、嬢ちゃんの知っている猫の、知り合いだ」そう言って、ニヤリと口元を歪めた。鋭い歯がギラリと光った。次の瞬間には猫又はいなかった。夏祭りの空気も全て連れ帰ってしまったようで、いつもと同じ退屈で疲れ果てた夜となった。

 

翌日、家に帰って猫まんまを作った。「あちっ」となった瞬間、思い出した。猫又がわたしを猫娘に、小妖怪にしてくれたことを。そしてニヤッと笑ってから、大妖怪には敵わないな、とつぶやき、食事が冷めるのを待った。