ひかりのなかで

あたたかくて穏やか

夜中の二時になろうとしている

 

 時刻、夜中の一時五十六分。明日仕事に行かなかければならないというのに、まだ目は冴えている。大学時代の友人からの電話。約二時間。もう寝なければと睡眠薬を口にする一歩手前のことだった。断ろうと思えば断れた筈だ。でもそうしなかった。彼の声を聞きながら、中身のない会話をしながら、時間だけが過ぎていく。明日困らないように包丁で睡眠薬を半分に割った。甘いミントのような味が口のなかで溶けていった。

 伝えたいことなどなにひとつなかった。ただ嬉しかったこと、怒ったこと、困ったことについて、二人はひとしきり話した。猫カフェに行く約束をしたあと彼はジュースを買いに行くといい、わたしは気を付けてと言った。そして電話を切った。時刻夜中の一時五十六分。わたしは文字を並べる。何のために並べているのかなんて考えたこともなかった、言葉を知った時から並べることは始まっていた。内側から流れ出でるままに、正直に彼らは画面や紙の上に行儀よく整列していく。それを不思議に思うこともなく。

 

薬が効いてきたような気がする。少し寒い。不穏時に飲みなさいと処方されたメジャートランキライザーの液体がちいさなパウチのなかで揺れている。わたしはどうしてしまったのだろう。そもそも薬を飲まなければならないような体調なのだろうか。分からない。自分のことなのに。

 

時計はいつのまにか二時九分になっていて、「二時になろうとしている」という時間をとっくに過ぎていた。